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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)7630号 判決

原告 森宮満起

右訴訟代理人弁護士 高野洋一

被告 岡村吉雄こと 除丙旭

右訴訟代理人弁護士 高橋真清

右訴訟復代理人弁護士 伊多波トシ

主文

一  被告は原告に対し、昭和四六年九月一四日から別紙目録記載の建物についての共有関係に変更を生ずるに至るまで一ヶ月金二万八一三八円の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、別紙目録記載の建物のうち、地階全部、一階一八平方メートル(別紙図面記載のABCDEFGHAの各点を順次直線で結ぶ範囲内の部分)、二階全部、陸屋根並びに陸屋根上の附属物置を明渡せ。

2  被告は原告に対し、昭和四六年九月一四日から前項建物部分の明渡済ないし同建物についての共有関係に変更を生ずるに至るまで一ヶ月金二万八一三八円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙目録記載の建物(以下本件建物という)は、原告、森宮茂雄、森宮隆、佐藤文枝の共有(持分は各四分の一)であった。

2  被告は昭和四六年一月二九日前記佐藤文枝よりその持分権を譲受け、本件建物を原告らと共有するに至った。

3  被告は原告に無断で次のとおり本件建物部分に変更を加えた上、単独でこれを占有使用し、原告の右部分に対する使用収益を妨げている。

(一) 昭和四六年三月一〇日頃から本件建物の二階を全面的に改造し、従来の住居用建物を店舗用に変更し、同月二七日より「食道苑」なる名称で焼肉を主とした朝鮮料理店を開店した。

(二) さらに本件建物一階のうち別紙図面記載のABCDEFGHAの各点を結んだ範囲内の部分一八平方メートルについても従来の和室六畳一間および浴室約六・六平方メートルを取毀し、店舗に改造して同年四月一〇日頃より「旭寿司」という名称で鮨屋を開店した。

4  その上被告は本件建物の陸屋根に看板を設置し、地階全部及び陸屋根上の付属物置をも単独で占有使用し、原告の右部分に対する使用収益を妨げている。

5  被告の第3、第4項による占有面積は一一七平方メートルでその賃料相当額は一ヶ月一一万二五五四円(一平方メートル当り九六二円)である。

6  第3項に記載したとおり被告は共有物たる本件建物部分に変更を加えた上これを単独占有し、また第4項のとおり単独で地階および陸屋根、その上の付属物置を占有使用し、いずれも共有持分権者である原告を排除し、その持分権を侵害している。共有持分権者である原告は、被告が民法二五一条に違反してなした前記改造工事を原状に回復し、各共有者にその持分に応じた使用をさせるため、被告に対し、その占有部分の明渡を求め得るものというべきであるから、右占有部分の明渡を求めるとともに不当利得あるいは不法行為を理由に、右単独占有開始後の昭和四六年九月一四日から右明渡済ないし本件建物の共有関係に変更を生ずるに至るまで、原告の持分(四分の一)に応じた賃料相当額一ヶ月金二万八一三八円(円未満切捨)の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否と主張。

第1項、第2項は認める。但し被告が訴外佐藤より本件建物の持分権を譲受けたのは昭和四五年一二月一九日であり、さらに被告は、同四六年一二月七日森宮茂雄から同人の持分権(四分の一)の譲渡を受けた。

その余の事実はすべて否認する。

第三証拠関係≪省略≫

理由

第一明渡請求について

一  本件建物が、原告、森宮茂雄、森宮隆、佐藤文枝の共有(持分は各四分の一)であったこと、被告が右佐藤からその持分権の譲渡を受けたことについては当事者間に争がない。

二  ≪証拠省略≫を総合すると、

1  被告は佐藤から右持分権の譲渡を受けた昭和四六年一月末頃、従前同女が占有居住していた部分、即ち、本件建物中玉英堂こと今江利春に賃貸している一階部分を除くその余の部分(以下本件係争部分という。)の明渡を受け、同年二月中旬頃共有者の一人であった前記森宮茂雄の了解を得たのみで、他の共有者である原告および森宮隆との協議を経ることなく、それまで住居用であった本件係争部分の店舗用改造に着手し、同年三月下旬ほぼこれを了し、爾来一階部分は被告の妻辛七夕名義のもとに「旭寿司」の名称で鮨屋営業を、二階は「食道苑」の名称で焼肉店をそれぞれ被告が経営し単独で本件係争部分の占有使用を継続している。

2  被告はさらに昭和四六年一二月七日本件建物の共有者の一人であった森宮茂雄から同人の持分権(四分の一)の譲渡を受け、かくして被告の持分は四分の二となった。

以上の事実が認められる。

≪証拠判断省略≫

三  ところで共有者の一人による共有物の単独占有の当否は、明渡請求権の存否という形で決せられるべきではなく、共有者間における利用方法の協議、償金の支払、共有物分割等によって共有者相互間の利害の調整を図るのが法意であると解すべく、従って多数持分権者と雖も共有物を単独で占有する少数持分権者に対し、当然にはその占有物の明渡を請求することができないものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、原告は被告に対する関係において少数持分権者にすぎないこと前記のとおりであり、しかも前認定のように被告は本件係争部分の従前の単独占有者であった佐藤から共有持分権を譲受けてそのまま同人の占有を承継しかつ≪証拠省略≫によれば被告は共有者全員の協議による解決を望んでいることが認められ、これらの事情を併せ考えるときは、被告が先に認定したように原告に無断で本件係争部分に改造を加えた事跡を考慮に入れても、少数持分権者にすぎない原告の被告に対する本件係争部分の明渡請求は許されないというほかない。

第二金員請求について

一  ≪証拠省略≫を総合すれば、

1  本件係争部分の内、地階全部の床面積は二一・五平方メートル、一階のうち別紙図面記載のABCDEFGHAの各点を順次直線で結んだ範囲の床面積は一八平方メートル、二階全部の床面積は七一平方メートル、陸屋根上の物置の床面積は六・六平方メートルで、被告が占有している本件係争部分の床面積は以上合計一一七平方メートルである。

2  そして被告は本件係争部分の占有使用を開始した当初から、原告が本件建物について四分の一の共有持分権を有していることを知りながら単独で右係争部分全部の占有使用を継続してきた。

ことが認められる。そして被告が本件係争部分を単独で占有使用しているのは、原告に対する関係では、法律上の原因なしに同人の持分権を利用することによって利得をえ、反面原告にその持分(四分の一)に応じた損失を与えていることになるから、原告は被告に対し同人が右によりえている利得の四分の一の返還を求めうるものというべきである。

二  ≪証拠省略≫によれば、昭和三七年三月三一日亡森宮茂吉が前記今江利春に対し本件建物のうち一階約五三平方メートル(約一六坪)を賃貸したときの賃料は一ヶ月五万一〇〇〇円であったことが認められるので、右建物部分の一平方メートル当り一ヶ月の賃料額は九六二円(円未満切捨)というべくこれを基礎に算出すれば、被告の占有する本件係争部分の賃料相当額が月額一一万二五五四円に上ることは計数上明らかである(もっとも、右今江に対する賃貸部分は一階の道路に面した店舗としての利用度の高い部分であることは≪証拠省略≫によって窺われ、他方被告の占有する本件係争部分は、地下室、二階、陸屋根上の物置で、利用価値において前記今江賃借部分に比し劣ることは否み得ないが、原告が不当利得金の支払を求める始期として主張する昭和四六年九月一四日は、今江に対する右賃料額が定められた時から九年半近く経過しており、その間における建物賃貸料の一般的騰勢を考慮すれば、本件係争部分の賃料相当額を今江に対する賃貸部の賃料額を基準として算出することは強ち不合理ではないというべきである。)。

従って右金額を四で除した二万八一三八円(円未満切捨)が、被告の原告に対する関係における一ヶ月の不当利得金額というべきである。

そして右利得は、本件係争部分の明渡請求の認められない本件においては、本件建物につき共有者間において共有物分割、共有持分の譲渡等共有関係に変更を生じないかぎり継続して発生するものというべく、原告が右の趣旨においても不当利得金の支払を求めていることは訴旨に照らし明らかである。

第三結論

よって、原告の本訴請求のうち、本件係争部分の明渡を求める請求は理由がないからこれを棄却し、原告が本件係争部分について単独占有を開始した後であること前認定に照らし明らかな昭和四六年九月一四日以降の不当利得金の請求は、前記趣旨の請求としては理由があるので右趣旨の判決を求めるものとしてこれを認容することとし、訴訟費用の負担については民訴法第八九条、第九二条を適用してこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の負担とし、仮執行宣言の申立については、その必要がないものと認めてこれを却下し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木潔 裁判官 荒川昂 裁判官宮森輝雄は職務代行を解かれたので署名押印することができない。裁判長裁判官 鈴木潔)

〈以下省略〉

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